人を変えようとせず、
空間を変えることで行動を変える。
空間デザイン心理学®は、心理学・行動科学・建築などの知見をもとに、
人の気持ちや行動を自然に後押しする空間づくりの体系です。
こんにちは。一般社団法人 空間デザイン心理学協会、代表の高原美由紀と申します。
片づけられないのは、その人の性格のせいでしょうか?
集中できないのは、意志が弱いからでしょうか?
家族がぶつかるのは、性格が合わないからでしょうか?
もちろん、人の悩みや行動の原因をすべて空間だけで説明することはできません。でも私たちの気持ちや行動は、自分の意志だけで決まっているわけでもありません。毎日過ごしている場所、目に入るもの、動線、距離、明るさ、音、色、居場所など、周囲の環境からもさまざまな影響を受けています。
自分や誰かを責める前に、空間を見直してみる。
そこから解決できることがあるのではないかと、私は考えています。
この考え方の原点となった、あるお客様との出来事
私は空間デザイン歴30年以上、一級建築士として1万件以上の間取りを指導し、住宅・店舗・ホテルのリフォームや、モデルルームなどのデザインに携わってきました。その原点となったのが、25年以上前、駆け出しのインテリアデザイナーだった頃に訪れた、あるお客様のお住まいでした。
「ごめんなさい。片づけられなくて……」
「ごめんなさい!高原さん!!ごめんなさい。ごめんなさい。片づけられなくて……ごめんなさい。」
ダンボールや本、書類、バッグなどが積み上げられ、ほとんど床の見えないリビングで、お客様は背を丸くしながら、何度も頭を下げました。
その1年半ほど前。お客様から「収納がないから片づかないんです。だから、リフォームして大きな収納をつくってほしいんです」というご相談をいただきました。そこで私たちは、所持品の量や寸法、使う場所、使う頻度まで確認し、できる限り機能的な収納計画を立てました。
そして、壁いっぱいの大きな収納のリフォームが完成しました。お引き渡しのとき、お客様は目をキラキラさせて「わあ、嬉しい!素敵!これで、やっと片付きます!」とおっしゃいました。私も、これでこの方の暮らしはきっと良くなると思っていました。
それから1年後。きれいに片付いたお部屋で暮らしていらっしゃるだろうと、胸躍らせて再び訪問すると、そこには以前と同じように、物があふれた部屋がありました。そして、お客様はおっしゃったのです。
「ごめんなさい。片づけられなくて……」
私は言葉を失いました。
収納がなかったときは、「収納がないから散らかっている」とおっしゃっていました。けれど、大きな収納をつくっても片づかなかったことで、今度は「収納があるのに片づけられない自分」を責めていらしたのです。
私たちは、本当に問題を解決していたのだろうか
私は大きなショックを受けました。お客様を幸せにしたくてデザインしたはずなのに、結果として、お客様が自分を責める理由を増やしてしまったのではないか。
「片づかない。だから収納を増やす」。それだけでは、少なくともこのお客様にとって、本当の解決にはなっていなかったのです。
では、あのときどんな提案をするべきだったのか。お客様が本当に困っていたことは何だったのか。その人に合った空間とは何なのか。どうすれば、お客様がしあわせに暮らすことを応援できたのか……。大きな罪悪感と混乱でいっぱいになりました。
もう、表面的な問題だけを見て空間をつくらない。
そう決めました。
3つの問いから、探究が始まった
その経験から、私は大きく3つの問いを持つようになりました。
- その人が本当に求めているものは何か
言葉にされた要望を、そのまま答えだと思っていいのだろうか。「収納が欲しい」という言葉の奥には、どんな暮らしをしたいのか、どんなことに困っているのか、どんな自分でありたいのかという、別のニーズがあるのではないか。 - 人が心地よく、幸せに暮らせる空間とは何か
美しいことや機能的であることだけが、良い空間なのだろうか。人の心理や行動、身体、個人差まで考えたとき、空間にはどのような条件が必要なのだろうか。 - 空間を通して、人の暮らしや幸せにどう貢献できるのか
デザインすること自体を目的にするのではなく、その空間で暮らす人の人生を支えるために、設計者には何ができるのか。
この3つの問いへの答えを探すことが、その後の私の仕事と研究の軸になりました。
人と空間を理解するために、学び直す
当時、私が求めていた答えを、建築やインテリアの本だけから見つけることはできませんでした。そこで、人そのものを理解することから学び直すことにしました。
早稲田大学人間科学部を受験して2年生に編入し、そして早稲田大学大学院で、人間の心理や行動、そして人と環境との関係について探究しました。また、研究だけではなく、実際に人の悩みやニーズを理解し、行動の変化を支援するために、コーチングやファシリテーション、マインドフルネスなど、人への働きかけについても学びました。
そうした学びと、長年の空間デザインの実務を行き来しながら、少しずつ考え方と方法を25年かけて体系化していきました。
3つの問いから生まれたもの
1.その人が本当に求めているものを理解する ― LDNメソッド®
人が口にする「これが欲しい」という要望と、その人が本当に必要としているものは、必ずしも同じとは限りません。そこで、早稲田大学の小島隆矢教授のもとで学んだ科学的なヒアリング法に、コーチングや心理学の要素を取りいれて、お客様のニーズを的確に引き出す新たな質問法(LDNメソッド®)を開発しました。
「何をつくるか」の前に、この人はどんな暮らしを望んでいるのか。そこから考えるための方法です。
2.人の心理や行動を支える空間を考える ― 空間デザイン心理学®
人は、空間からさまざまな影響を受けながら生活しています。家具の位置ひとつで動き方が変わることがあり、人との距離で会話のしやすさが変わることもあります。居場所のつくり方によって、落ち着き方や集中のしやすさが変わることもあります。
そこで、心理学・行動科学・建築などの知見と、長年の実務経験をもとに、人の心理や行動と空間との関係を空間づくりに生かすための体系としてまとめてきたものが、空間デザイン心理学®です。
私が目指しているのは、人そのものを無理に変えようとするのではなく、その人が自然に望ましい行動をとりやすくなる環境をつくることです。モノを美しく配置することだけではなく、「この空間で、人はどう感じ、どう行動するのか」というところまで考えて空間をつくります。
3.空間を通して、人の暮らしに貢献する ― 空間デザイン心理学協会
私たちは、人生の多くの時間を建物や空間の中で過ごしています。住まい、職場、学校、店舗、病院、福祉施設。空間は毎日、私たちの目に入り、私たちの行動の舞台になっています。
それならば空間を、ただ「おしゃれにする」「使いやすくする」だけでなく、その人が、その人らしく暮らし、働き、人生を送ることを支えるものにできるのではないか。そう考え、2019年に一般社団法人 空間デザイン心理学協会を設立しました。
人に合わせて、空間を考える
「心地よい家」の正解は、ひとつではありません。静かな場所で落ち着く人もいれば、ある程度人の気配がある方が安心する人もいます。ものが見えていた方が使いやすい人もいれば、視界にものが入らない方が集中できる人もいます。
人を理解すること。
空間を理解すること。
その人に合った空間をつくるには、その両方が必要です。
人に空間を合わせる。そして必要であれば、望む行動が起こりやすいように空間を整える。それが、私が長年探究してきた空間づくりです。
自分や誰かを責める前に、空間を見直してみる
うまく片づけられない。集中できない。家族との時間が落ち着かない。なぜか家にいても休まらない。
そんなとき、「もっと頑張らなければ」「自分の性格を変えなければ」「相手を変えなければ」と考える前に、一度、周りの空間を見てみてください。そこには、本人の努力だけでは気づきにくい原因や、少し変えるだけで楽になることが隠れているかもしれません。
人を変えようとせず、空間を変えることで行動を変える。
空間デザイン心理学®を通して、誰もが自分らしく、心地よく暮らせる空間を増やしていきたい。それが、私がこの活動を続けている理由です。
しあわせは、いつもここから。
一般社団法人 空間デザイン心理学協会
代表 高原 美由紀















